火の用心マネジメント


決まったはずの全社ルールが守られていない。
経営方針が現場で実行されていない。
全社メールで告知したのに内容が理解されていない。


企業規模が大きくなればなるほど、
新たなルールやTOP層で決めた決定事項が
末端の社員まで伝わることが非常に難しくなります。


なぜなんでしょう?

いろいろな理由はあると思います。

例えば、
理解度が乏しいまま、なんとなく伝わっているだけ。
伝わってはいるが、実行には至らない。 
単純に連絡し忘れている。など


この課題をクリアーするために、
私が意識しなければいけないと思っていることがあります。

それは”咀嚼(そしゃく)力”です。


■咀嚼とは

〜 咀嚼とは 〜

言葉や文章などの意味、内容をよく考えて理解すること。

とあります。

この咀嚼力を、伝える側も、伝えられる側も
十分に意識する必要があります。

「伝える」と「伝わる」は違うとよく言いますが、こう言う事です。

一対一でもなかなか伝わらないのに
これが、伝える対象が複数の人間だったり、役職・立場が違ったり
利害関係がまったく違う方々だったりすると、なおいっそう大変な作業になります。

その際は、どうすればいいのでしょうか?

マクドナルドの原田社長が、マクドナルドの社長に就任したばかりの時に
全国に何千人もいる店長を大型ホールに集めて、直接経営方針を伝え
その場にいない現場のクルーには、そのメッセージをつめたCDを配って浸透を図った。
という話があり、すばらしい徹底ぶりだな。。と関心します。

年に一度の全社集会やキックオフだとこのような事はできるかも知れません。
ただ、なかなか日常での重要決定事項やルール改正に関して
そこまで大掛かりなことをできないのが現実だと思います。

この原田社長のようにすべての人間に直接伝えることは非常に難しいので
一般的な方法としては

[1] 全社メールを送る。
 →ただ、階層によって伝わり方が違ったり、文章での限界がありますよね。

[2] 階層ごとに段階を経て伝えていく。
 →手間はかかりますが、ワリと伝わりやすい。

[2] とは
社長

役員

部長

MGR

リーダー

メンバー

このプロセスを経ていれば、たいてい物事はうまく伝わるはずです。
ただ、これでも先ほどの”咀嚼力”の差で結果がまったく違います。



■火の用心!!

私が、この差を無くすためによく言うのが
”火の用心マネジメント”です。(勝手に私が作った言葉ですw)


皆さん、江戸時代の城下町を頭に思い浮かべて下さい。

その町の主はもちろん、お城に将軍様なわけです。
会社でいえば社長ですね。

将軍も自分の城下町、領土発展のために
いろいろな事を考え、決定し、伝達し、統治しなければいけません。

ある日の事、その将軍が、家来の報告で
最近城下町でいろいろ事件が起こっている事を聞いたとします。
引ったくり、泥棒、殺人事件、火事など。。。

将軍はその報告を聞いて、特に乾燥する季節なので
火事の防止に対策を講じたいと思い
家来に『火の用心を徹底するように!』と言ったとしましょう。


これが、会社で言うところの「経営方針の決定」です。

あとは、この方針を城下町に浸透させて火事を減らさなければいけません。

ただ、将軍が町人すべてに伝えることは不可能なので
先ほどの、組織の情報の流れを
江戸時代に置き換えたら下記のようになるでしょうか。
(※専門家ではないので間違いはあしからず)


将軍

老中

江戸町奉行

江戸町火消

町人


この情報の流れの中に咀嚼力が必要なわけです。


この流れにも二つのパターンがあるので紹介します。


[1] 一番最悪なパターン
(※ただ結構、組織ではこんな場合が多い。。。)

将軍
↓『火の用心!』と伝える
老中
↓『火の用心!』と伝える
江戸町奉行
↓『火の用心!』と伝える
江戸町火消
↓『火の用心!』と伝える
町人

○結果
咀嚼の努力がまったくなく、町人は何をしたら言いか分からず
何も実行されず、火事は減らない。。。


[2] 本来あるべき理想のパターン

将軍
↓『火の用心!』と伝える。
老中
↓『火事の一番の原因を分析するように』と指示。
江戸町奉行
↓『原因は夜のタバコの不始末だと特定できたので、町人は交代で夜巡回すべし』と指示。
江戸町火消
↓『順番を月曜日は●●さん、火曜日は●●さんと決める』そしてその順番を町人伝える。
町人
 『火の用心、マッチ一本火事の元、タバコの不始末火事の元』と巡回し火事を抑止する。

○結果
・夜の巡回者の声を聞いて、火の元の意識をするようになる。
・自分も定期的に順番が回って巡回するので、そもそも意識があがる。

火事が減る。


[1]と[2]の違いは何かというと”咀嚼力”です。

老中は、将軍の意図を汲み取り(咀嚼して受け取り)
江戸町奉行に具体的に必要な対策を考えるように指示を出す(咀嚼して伝える)

段階を経ることで、より具体的なアクションに落としていかないと
意味がないと言う事です。

これが、意外と上が言ったことを、
そのまま下に落としている場合が多いのではないでしょうか?

受け取る側は、自分のアクションがイメージつくまで
不明な点は咀嚼力を用いて、上のメッセージをかみ砕いて理解する必要があります。

あとは、自分が下に落とす際に、下がイメージができるように
咀嚼して、下の人間に分かるように伝える”努力”が必要です。


そうしないと
例えば、社長の方針で

粗利改善、経費削減、売上向上、CS向上、新規事業開発強化など

が決められたとして、
その言葉だけが現場に落ちて来たり。
そうでなくても、実行側のメリットが理解できず、やらされになったりしますよね?

できることなら、伝える側は、伝えられる側の事を十分に理解して
相手に分かる様に、言葉を選び、できる限り具体的な事例を交え、
丁寧に伝えなければいけません。

相手の事を十分に理解するとは
相手の心理状況、知識レベル、おかれている環境、
この事が伝わることによる、メリット・デメリットなどです。


■1言えば、10わかる?


最後に、上記のように、上司・部下のチェーンの流れのうち
上層であればあるほど、比較的分かり合える場合が多いです。

いわゆる、1言えば、10わかる。というやつです。
ただ、下に行けば、行くだけ、1言っても、2ぐらいしか分からなくなります。
なので、下に行けば行くほど、慎重に咀嚼しなけばいけません。


この理由は、関係性の深さです。

上層の人間は付き合いが長い場合が多いです。
そんなにしょっちゅう、社長や取締役は交代しません。

ただ、現場レベルだと、異動や、昇格、新人が増えるなど
メンツが多種多様に変わるのです。

なので、社長が1言えば、10年付き合いのある取締役なら10わかるのです。
ただ、入社したばかりの新卒に、いくらリーダーが1言っても
10わかる事はほぼないでしょう。

ということで。関係性の深さ、価値観の共有度合を客観的に理解しながら
伝えるというコツが必要な訳です。



皆さんも経験した事があると思います。
『時間をかけて話しているつもりなのに、なかなか相手に伝わらない。。』という事が

相手に100%伝わるのって本当に難しいですよね。。。


伝える事にも受け取る側にも”努力”が必要だと思います。
その努力(=咀嚼)をお互いがする事で
普段のコミュニケーションも、よりよいものになると思います。